26歳。仕事と家の往復だけで一週間が終わる。週末になっても何かを楽しみにする気力もなくて、ただスマホをスクロールしながら時間を溶かしていく——そんな生活をしていたわたしが、まさかVTuberの推し活で人生変わるなんて、一年前の自分に言っても絶対に信じないと思う。
正直、「推し活」って言葉が苦手だった。アイドルにお金を使う人とか、ライブで叫んでる人とか、自分とは違う世界の住人だと思ってた。何かに夢中になれる人が羨ましい反面、ちょっと引いてる自分もいて。たぶん、本気で何かを好きになることが怖かったんだと思う。傷つくのが嫌だから、最初から距離を取る癖がついていた。
きっかけは本当に偶然だった。残業で疲れ果てて帰ってきた深夜、なんとなくYouTubeを開いたら、おすすめに上がっていた切り抜き動画。サムネに映っていたのは、美少女エルフを名乗る女の子。「にじさんじ所属VTuber・える」。
クリックした理由は今でも覚えていない。たぶん、何も考えたくなかっただけ。
最初の数十秒で、もう違った。
声が、優しいの。優しいって言葉じゃ足りないくらい、芯から穏やかで、聴いてるだけで肩の力が抜けていく。配信内容は別に特別なことじゃない。ただ視聴者と雑談してるだけ。なのに、なんでだろう、涙が出た。深夜の真っ暗な部屋で、画面の中の天使がリスナーに「お疲れさま」って言ってくれた、ただそれだけのことで、ボロボロ泣いた。あの瞬間、自分がどれだけ「お疲れさま」って言ってもらいたかったか、初めて気づいた。
それから、毎日アーカイブを漁った。えるさんはにじさんじの一期生で、活動歴がとても長い。
膨大なアーカイブを遡って、日曜日の雑談、Apex、麻雀、コラボ、ぜんぶ見た。
見れば見るほど好きになった。穏やかなだけじゃなくて、ちゃんと意志があって、長く活動を続けてきた強さがある。配信を続けるって、本当はすごく大変なことだと思う。それでも、いつもリスナーに優しい言葉をくれる。その姿勢に、わたしは救われた。
生活が、変わり始めた。
まず、配信を見るために定時で帰るようになった。仕事の効率が上がった。夜に楽しみがあるって、こんなに毎日を変えるんだ。配信時間に間に合うように家事を済ませる癖がついて、部屋もきれいになった。配信のない日は過去アーカイブを掘る。歌枠の歌をプレイリストにして、通勤中に聴く。それまで無音だった朝の電車が、急に色付いて見えた。
グッズも初めて買った。アクスタが届いた日、震える手で開封して、デスクの上に飾った。「推し活してる人ってこんな気持ちだったんだ」って、ようやくわかった。バカにしてた過去の自分を殴りたい。何かを心から好きになるって、こんなにエネルギーをくれることだったんだ。
それから、SNSも始めた。同じくえる様を推してる人たちと繋がって、配信中にコメントで盛り上がって、感想を呟き合う。会社の人にも家族にも話せない感情を、画面の向こうの誰かと共有できる。これも、20代になって初めての経験だった。「好き」を共有できる相手がいるって、世界の広さが違う。
何より大きかったのは、自分を肯定できるようになったこと。
える様の配信を見ていると、「ちゃんと休んでいいよ」「自分を大切にしてね」っていう言葉が自然と心に染みてくる。それまでのわたしは、休むことに罪悪感があった。何もしてない自分を責めてた。でも、推しが「無理しないで」って言ってくれるなら、それは聞かなきゃダメだと思った。推しの言葉だから、ちゃんと届いた。自分のためには言えなかった「お疲れさま」を、推しを通して自分に言えるようになった。
最近、ふと鏡を見たら、ちょっと笑顔の輪郭が変わってきた気がする。何もない週末がなくなった。配信の予定が入った日は、朝から楽しみで仕方ない。仕事のミスで落ち込んだ夜も、「今日もえる様の配信がある」って思うだけで、もう一歩踏み出せる。
推し活って、何かを得るために始めるものじゃないのかもしれない。気づいたら、もう始まってる。気づいたら、世界の色が変わってる。
える様、出会ってくれてありがとう。あなたの声が、わたしの空っぽな夜を終わらせてくれました。これからも、ずっと推し続けます。


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